脱走

今、今までの中でとてもしんどい状態にある。
最後の膿を出した後は、楽になれるはずだったのに。
他人と接触するのが怖い。
他人に心の内を見せるのが怖い。
したいことはあるのに、できない。心が湧いてこない。
心の内を出したいのに、できない。心が湧いてこない。
何がしたいのか、何をしているのか、わからない。
今までできていたことができなくなった。
それがしんどい。
パソコンに向かえない。ネットが出来ない。メールが怖い。電話が出来ない。実家に帰れない。外に行くのが嫌だ。友達に会うのが怖い。怖い。怖い。何もかもが怖い。
でも、外に行きたいし、友達にも会いたい。
矛盾している。苦しい。



心の内を発散する方法は、もっぱら母との会話。
事件はそこから始まった。

膿を出すのに、良いことしか考えなかった。

そう言われた。
当たり前だ。悪いことを考えたら、不安になって、何も行動できない。
でも、私の中で何かが壊れた。

食事の後片付けをしているばばぁを尻目に、出かける準備をした。
車の鍵を出した。
ばばぁが止めに入った。

どけ。

一緒に行くと言い出した。

うるさい。ひとりで行く。

何処に行くとも決めてない。ただ、ココが嫌だった。
もう何処かに行ってしまいたかった。
それしか残されていなかった。

玄関を出る。
ばばぁもついてくる。
ばばぁが忘れ物をした。
慌てて帰って行くので、玄関でこけていた。
知るか。
わしは一人で歩いてく。
駐車場と反対方向へ。黙々と歩いて行く。わしを駆り立てるのは、怒りだ。
早歩き。下を向いて。何も見えない。歩く、歩く、歩く。

途中で何回かばばぁの運転している車が止まり、乗るように言う。

知るか。ほっとけ。歩いていくんじゃ。お前の命令になんか従うか。

歩く、歩く、歩く。
信号が見えない。歩き続ける。
横から車が来た。止まる。
信号が見えない。歩き続ける。
横から車が来た。止まる。



かなり歩いた。
何回目かのばばぁの車横付けで、ようやく乗る。
何も言わなかった。
ベルトもしない。
する気力もない。
ただ車は走る。山の中へ。



ドアを開けたい。開けたくない。開けたい。開けたくない。
闘う。二人の自分。闘い続ける。
死にたい。死にたくない。死にたい。死にたくない。
闘う。二人の自分。闘い続ける。
峠が来た。
もう気力がない。
ドアを開ける。
思ったより重い。
なかなか開かない。
ようやく開いた。
カーブだ。
また閉まる。
走ってる車のドアは、重い。
何回も開ける。
カーブで閉まる。走る力で閉まる。
開ける。閉まる。開ける。閉まる。



スピードが落ちた。
開けれた。嬉しい。
カーブ。よりドアが開く。ぶつかる。危険。ちょっと支える。



目的地に着く。
先客がいた。
ばばぁが先に出て、説明してる。
何故かしら、俺はここから居なくなりたかった。
迷惑をかけてはいけない。
そう思った。
俺は、車から降りた。

歩く。

あてもなく。

歩く。

見知らぬ道を。

歩く。歩く。歩く。

山の中へ。どんどん入っていく。

おいで、おいで。誰かが呼んでる。
おいで、おいで。誰かが呼んでる。



歩く、歩く、歩く。
細い道。舗装されてない道。

自分でも何がしたいかわからない。何を求めているのかわからない。
ただ、歩く。
誰も知らないところへ行きたかった。

奥へ、奥へ。もっと奥へ。
誰も来ないところへ。



ねちゃ。
何かが引っかかった。
でっかい蜘蛛の巣だった。
気持ち悪い。叫ぶ。
逃げる。もと来た道へ。

大きな墓があった。
じいちゃんの墓だ。
南無阿弥陀仏。
そう書いてあった。
あそこに行こう。
そう思った。



墓の後ろへ。
座り込む。
仏様が守ってくれる。
大丈夫。
ひとりになった。
蟻が動いている。虫が飛んでいる。刺される。痒い。闘う。

魂が抜けたようだ。何をしているのかわからない。何がしたいのかわからない。
もう嫌だった。何もかも。こんな思い。こんな日々。
元気になりたいのに。ただそれだけなのに。



どれくらい経ったのだろうか。あたりが暗くなった。
だけど、空は白い。
誰かが見つけてくれるまで、ここに居ようと思った。
否、一人ではもう動けなかった。力が無い。



電話が鳴る。
とれない。
力が無い。
ただ、泣いている。
ひとりで泣いている。
苦しいよ。苦しいよ。苦しいよ。
辛いよ。辛いよ。辛いよ。
どうしたらいいの。どうしてあたしなの。
もう嫌だ。もう嫌だ。もう嫌だ。






どれくらい時間が経ったのだろう。
泣いていた。ずっと。泣いていた。
暗闇で、日記を書いた。字が見えないけど、書いた。
誰かが見つけてくれるまで、ここを動けない。
もう、私はここで、じっとしてるんだ。
仏様と一緒になるんだ。



ふいに誰かが私を呼んだ。
○さんが来てくれた。
家族総出で来てくれた。



私は見つかった。






両側を支えられながら、山道を降りていく。

両親にも連絡が行った。



○さんちで話してた。
誰も怒らなかった。

ごめんなさい。ごめんなさい。

誰も怒らなかった。

なんたんは、少しずつ話せるようになった。



お母さんは家のほうまで探しに行ったらしい。

○さんは習字の先生ちまで。

父さんは、実家から電車で来てくれることに。



なんたんは、苦しかったんだ。
どうしていいかわからないほどに。



ようやく、夜の薬を飲んだ。
おたーたんが来た。
なんたんは車に乗った。おとーたんを迎えに行く。

○さんたちは夕ご飯も食べずに探してくれた。仕事で疲れてるのに。
ごめんなさい。ありがとう。

おたーたんにベルトをしめられた。苦しい。嫌だ。

おたーたん、怒らなかった。なんたん、ぶたれると思ってたのに。

山道を下る。
家に着く。
おとーたんが来てた。
ごめんなさい。ありがとう。



でも、なんたんは二人に近づくのが嫌だった。離れた。
触るな。来るな。話しかけるな。



なんたんは、まだ疲れている。

すぐにシャワー浴びて、ねた。

２２時だった。

１８時半～２２時まで。
なんたんの、辛い、辛い、旅だった。
みんなにも迷惑かけた。ごめんなさい。

早く楽になりたい。
元気になりたい。
もう一度、みんなと働きたい。
働きたい。
元気になりたい。元気になりたい。元気になりたい。